もし春香が再び「ガンツ」の部屋に呼ばれたら……

 あの壮絶な夜から数週間後、2度目となる「ガンツ」の部屋への転送を受ける、
天海春香さん。今度はなんとたった一人きりで、「チビ星人」狩りミッションを
させられる羽目に。ご愁傷様。

 765プロのみんなの命を取り戻すため、何度でも100点を取ると心には誓った
ものの、やはり春香は女の子。いざターゲットを前にすると、「チビ星人」とやらの
幼児のような背丈、どこか愛嬌のある外見に、独りきりの心細さも手伝って、引き金を
ひくのを躊躇ってしまう。それでもやっぱり、あらかじめ練習していた通りロックオ
ン機能で、チビを破裂死させる春香さん。そんなもんである。
響などあの状況になってなお、持ち前の「いきものを大切にする心」から、敵の武装解
除を狙ったというのに……。腹黒いね。

 そしておまちどう、同胞を殺されたことに気づき、わいてくる他のチビ星人・9匹の仲間たち。
まるで人間のような星人を殺した罪悪感にボーッと立ちつくしていた春香さんは、いつの間にか取り囲まれていた。

『コイツが同胞を破壊した……許すまじ!!』『同胞はもう二度と動かない!』『許すまじ!!』
『解体せよ……!!』『四肢をもいでしまえ……!!』『解体せよ……!解体せよ……!』



 春香自身、仲間を殺された悲しみは痛いほど分かる。そのため、自分もまた、無惨にみんな命を
奪ったあのモンスター達と同じだということを、仲間を悼む感情と復讐心を、頭の中にテレパシーで
直接流し込まれ、少女は絶望する。
 ただでさえ恐怖心と罪悪感、孤独で崩壊寸前だった春香の心は、完全に戦意を喪失。
涙目で「ごめんなさいぃ!」とろれつの回らない謝罪をしながら逃げまくる。(転ぶ。)
春香は、もともと心優しく(たぶん)、他の生き物の命を奪おうなどとは考えないはずの少女
なのだ。これが、本当の姿なのだ。

 しかし復讐に燃えたチビ星人たちは、絶対に許さない。集団リンチによって、春香さんを
10メートル以上も蹴りとばし、人間リフティングの刑を与え、ビルの上から突き落とし、
スーパーコンボを決め、片腕をもぎ取り、耳を引きちぎり……。可愛そうな春香さん。
逃げ回りながらも順調に痛めつけられ、結局、チビ星人は1匹しか退治できず時間切れ。
 チビたちが時間制限の存在を知らず、春香を苦しめてなぶりごろしにしようとしたおかげで、救われた。

 ひきつった顔と、なりふりかまわず逃走する情けないポーズのまま、『控え室』に転送され
帰ってきた、黒い全身タイツ風スーツの春香さん。極度の緊張状態に、涙すら出ない。
 のヮの、二度目の生還。二度目の、【0点】。




 翌日。
 春香の脳波パターンを探し当て、学校に、男子高校生の姿に擬態したチビ
星人たちが「お礼参り」にやってきた。『お前は同胞を破壊した……』
『お前の同胞も破壊する……』 春香さんの大事なクラスメートを、
――765プロの同僚が消えた今、ますます大切になった学校の友達を――
チビ星人たち9人衆が皆殺しにしていく。一人残らず、女も、男も。
春香のアイドル活動に、好意的だったクラスメイトも、嫉妬していたクラ
スメイトも、興味なさげだったクラスメイトも。先生も。関係なく。全員。

 しかし春香、ここでも逃亡。
 仕方ないのかもしれない。1匹くらいならともかく、あの数はどうにもならない。
それに、ミッション以外で怪我を負わされたら、ガンツに治してもらえないので
はないか。ミッション外でガンツの武器を使ったら自分が頭がバーンされるかもしれない。
ついでに点数にならないのではないか。


 しかし、そんな理屈など春香の頭からふき飛んでいた。
春香は、自分の中に芽生えた、醜いエゴイズムに、かすかに気がついてしまっ
たのだ。そして、チビ星人にテレパシーでそれに気づかれるのは何としてでも
防がなければならなかったのだ。だから全力で逃走したのだ。彼の安全のために。
(あぁ、殺されたのがプロデューサーさんじゃなくて良かったぁ……)
(事務所にいるときじゃなくて、学校にいるときに来てくれて、不幸中の幸いでした)

 ほっとしていた……友達を虐殺されているのに、どこかほっとしていた……
懸想していたから。愛の力で、脅威的なダッシュで逃げた。自分のせいで、みんな体はバラバラになったのに。
自分のことを心から応援してくれた同学年の友達が、激痛を受けて死んだのに。
その後チビ星人を足止めしようとする勇敢な警察官や機動隊員が、チビに「春香の同胞」認定されて殺されるのに。

 だから春香は、そんな自分自身への嫌悪感、さげすみ、果ては憎しみで頭が狂ってしまいそうだった。

  ~ ~ ~ ~ ~

 そしてガンツに呼び出され、【15点以上とらないと死にでち】と指示されて、
自暴自棄の状態で刀やロックオン機能を駆使しチビたちを掃討する春香。
その顔からは、人間らしい感情は、殺され、消し去られていたのだった。
しかたないよね。こいつら放っておくと、プロデューサーさんまで殺されちゃいますものね。
やっぱり狂うしかない春香さんであった。ひどい人だ春香さん。


  • 最終更新:2011-12-31 18:12:28

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