やったぞ雪歩、ゲームに出演!

12 :やったぞ雪歩、ゲームに出演!:2008/08/24(日) 02:40:26 0
1、P視点
「雪歩、仕事だ!」
「ひゃうっ!」
事務所に駆け込んだ俺に驚いたのか雪歩は悲鳴を返してよこした。
「ほ、本当ですか。さすがDランクになると、向こうからお仕事が入ってくるんですね」
「ゲームの台本らしいぞ。サンプルを貰ってきたから読んでおいてくれ」
「はい。が、頑張りますぅ」
緊張した面持ちで台本を読む雪歩。
一方の俺はニヤつきが止まらなかった。
なにせあの人気格闘ゲーム『ストリート拳Ⅱ』に出演することになったのだ。
やっとランクDまで上がって、ようやく日の目が出てきたのはこれ以上ない幸せだった。
電話した時は社長も手放しで喜んでくれた。事務所に所属しているアイドルが雪歩しかいない以上、
彼女の進退が事務所の運命を決めるのだから、これは社にとっても快挙なのだ。
「あ、あの~。プロデューサー」
いい気分で椅子に座っている俺に、雪歩が小声で話しかけてきた。
「どうした?」
「これ、見てください」
雪歩がおずおずと差し出す台本を覗き込む。
「この『アイドルぽっぽ』が雪歩のキャラクターだな。どれどれ……キャア、か」
俺は『アイドルぽっぽ』のセリフを次々と声に出して読んでいった。
「あぐっ。うぐっ。いやっ。やめて。ひんっ。ぐぁ。……なんか、やられ声が多いな」
「というより、それしかないんですよぅ。いくら格闘ゲームだからって、そんなことあるんでしょうか?」
「……」
調べてみると、雪歩の演じるキャラクターはボーナスゲーム専用のものだとわかった。
「そ、そのボーナスゲームって何なんでしょう?」
「資料に書いてあるな」
資料を読んで聞かせると、雪歩は泣いて嫌がったが、もう断るわけにはいかない。
なだめすかして、最後には怒鳴りつけて納得させるハメになってしまった。
興奮して確認を怠ったのは俺のミスだが、この仕事には事務所の存続がかかっているのだ。
頑張ってくれよ、雪歩。


13 :やったぞ雪歩、ゲームに出演!:2008/08/24(日) 02:41:50 0
2、雪歩視点
あ、あの日の収録は最初から変だったんです。
そうです、音声監督さんがプロデューサーさんをスタジオから追い出した時点で、
何だかおかしいって思ってました。
プロデューサーさんがいなくて、私、すごく不安でした。
でもまさか、収録開始直後にあんなことを言われるなんて思ってもみなかったんです。
「ちょっと君、そんな悲鳴でユーザーが納得すると思ってるの?」
「だ、ダメですか……」
「格闘ゲームってさ、腹とか殴られたりするワケ。
 それをだよ、そぉんなスカート捲られたみたいな声出されたらね、もう俺だって萎えちゃうよ」
「す、すみません」
「謝ってすむんならいいんだけどね。おたく、ボーナスキャラなんだからあんまり時間取らせないでよ」
「はぃ」
「何なら、実際に腹を殴ってみる?」
穴を掘って埋まりかけていた私が、思わず顔を上げてしまうほど、それは強烈なセリフでした。
「は、はい?」
「このままじゃ埒があかないじゃん。よし、殴ってみよう」
「えっと。その、音響監督さん」
ずかずかと近づいてきた音響監督さんは、ことも無げにこう言うんです。
「君もアイドルしてるんなら、腹筋は鍛えてるよね。いくよ?」
言葉の意味を理解する前に、私の口からは声が漏れていました。
「がっ! ぐぇぇ」
「なんだ、いい悲鳴挙げるじゃない」



14 :やったぞ雪歩、ゲームに出演!:2008/08/24(日) 02:43:37 0
「あ…あ……あ」
呼吸困難に陥った私は、前のめりに倒れこみます。
音響監督さんは、そんな私を髪を掴み挙げてマイクの前に立たせました。
「あんた、プロなんでしょ。ちゃんとマイクの前で喋れよ」
耳元でささやかれる声に、私は恐怖を感じました。
「あ、ああああああ」
「そんなセリフないでしょ」
ズン、とお腹に衝撃が走ると体が重くなり、足の力が抜けました。
「あぐぁ……」
「そうそう、その調子」
気が付かなかったんですが、このときは、倒れないように音響監督さんが私の髪を掴んでいてくれたようでした。
「ぐお、おぇぇ」
私はお腹から何かが込み上げてくるのを感じましたが、まるで自分の体じゃないように言うことを聞きませんでした。
吐しゃ物が、私のワンピースにはりつき、そのまま床に零れ落ちていきます。
「あらら、汚したね……。まあ、それくらいは誰だってするから気にしなくてもいいよ」
「っは。っはっは」
はい、と言おうとしても、急には返事ができません。
何とか呼吸を整える私に、音響監督さんは言い放ちました。
「次は蹴りだね。ゲームでそういう技があるからやらないと。少なくともゲーム内の技は、ちゃんと体感してくれよ」
「や、やめ……。やめてくださぃ」
私は痛みと恐怖の中で必死に懇願しました。
「死んじゃいますぅ。やめてください、お願いします、お願いします。もう無理です。……がふぁ!」
一瞬、目の前が暗転し、私は初めての舞台で貰った拍手を思い出しました。



15 :やったぞ雪歩、ゲームに出演!:2008/08/24(日) 02:44:56 0
3、再びP視点
「格闘ゲームとはいえ、アフレコって時間のかかるものなんだな」
独り言を言ってみても、誰もいない。
俺はスタジオの外で、一人寂しくスケジュールチェックをしていた。
追い出されてからもう三時間になる。時間的にも午後のレッスンは無理かなぁ。
そんなことを考えていたとき、ようやくタオルを持った雪歩がスタジオから出てきた。
「終わったか。おーい、雪歩。どうだっ……くさっ!」
何故か股間の辺りを押さえていた雪歩はフラフラと俺が座っていた椅子に近寄り、そのままくずれ落ちるように腰掛けた。
「おい、雪歩。何だこの臭いは? このタオルは何だ?」
いくら雪歩に聞いても、彼女は疲れきったように僅かに顔をゆがめるだけで返事もしない。
仕方がないので、後から出てきた音響監督に聞くことにした。
「プロデューサーさんですね。お疲れ様です」
「いえ、こちらこそ、うちの雪歩が世話になりました。……えっと、何かあったんですか?」
ああ、と音響監督は苦笑しながら言う。
「雪歩ちゃん、緊張したのか吐いちゃって、少し汚れてしまったんですよ」
「そ、それはとんでもないことを……」
「いえ、その代わりいい声が取れましたからね」
その代わりが何の代わりか判らないが、ともかく気を悪くしてはいないようだ。
俺は安心して気の抜けたような雪歩を事務所まで連れ帰ったのだった。



16 :やったぞ雪歩、ゲームに出演!:2008/08/24(日) 02:45:46 0
後日談
その後『ストリート拳Ⅱ』は大ヒットした。
特に雪歩が出演したボーナスゲームは人気で、様々なメディアで取り上げられた。
「『アイドル壊し』って前作の『車壊し』と同じではないのですか?」
「いやいや『アイドルぽっぽ』に攻撃をかけたときの声がたまらないんですよ。実際に映像を見てみましょう」
俺はそれをちょっと複雑な思いで見ていた。
テレビのレポーターがコントローラーを操り、雪歩そっくりの女の子を殴り、蹴り、パイルドライバーや電気按摩までかけている。
そのたびに、アイドルぽっぽは悲痛な叫び声をあげ、助けを求めるのだ。
その悲鳴は真に迫っていて、正直なところ俺には痛々しく感じるものだった。
雪歩とゲームセンターの前を通り、このゲームからと思われる彼女の悲鳴が聞こえてきたとき、
雪歩は顔を背け、地面を見ながら足早にその場を去ろうとした。
「あのアフレコの時、何かあったのか?」
何度聞いても雪歩は答えない。ただ顔をしかめるだけだった。
あの日から雪歩はますます男に抵抗を感じるようになったようだ。
何か、トラウマを植えつけるようなことをしてしまったのかもしれない。
俺の思いをよそに、テレビからは興奮したレポーターと、アイドルぽっぽの声が漏れてくるのだった。
「ああ、時間切れだ。でも、時間切れ専用のセリフもあるんですよ」
『TIME OVER!!』
『死んじゃいますぅ。やめてください、お願いします、お願いします。もう無理です……』
「どうです、なかなか凄いものでしょう。この声を担当したのは萩原雪歩ちゃんと言って、
 まだデビューして間もないアイドルなんですが……」

おしまい

  • 最終更新:2009-05-31 16:47:27

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