ダルマ雪歩の結婚生活 その4

P「美希の出演作を見た、ハリウッドの有名監督がオファーを出してきてね。もともと美希の才能は
  国内にとどまるものではなかったんだろうな。最近特に妙にやたらやる気を出してくれたおかげで――」

 プロデューサーと一緒の布団で、自分のいない765プロの活躍を聞く雪歩。
ダルマとなった雪歩には、(元)仲間たちの躍進を聞くことが、他にない楽しみとなっていた。(自分は何もできないので。)
だが同時に、『私なんかいなくても、みんなトップアイドルとして問題なくやっていけている』事実、
単純に他の女の子の話題を楽しそうに語るプロデューサーに、寂しさと喪失感と、なにやら熱い感情が胸を締め付けるのだった。

雪歩(でも美希ちゃん、すごいな……。私がほしかったもの、なんでも持ってる。スタイルもよくて、歌も踊りもうまくて。
    それに比べて私なんて、元々ダメダメなのに、手も足もなくて……おトイレのあと、自分で拭くことも流すこともできなくて…)
 やさしく笑みを浮かべて、雪歩に語りを続けるプロデューサー。これも彼女をはげますためなのだ。
だが、その嬉しそうな顔は、雪歩が隣にいるからなのだろうか、ただ美希や春香たちが成功しているからではないか。

雪歩(でもっ、でもそうです、私には、プロデューサーが、いてくれますぅ………なにもない私ですけど、プロデューサーだけは私のそばにいてくれるから)
P「――そういうわけで一ヶ月ほどアメリカに出張することになったんだ」
雪歩「しゅ、出張……一ヶ月……」
 唯一残った頭を、がつんと殴られたような衝撃を受ける雪歩であった。

雪歩(プロデューサーは、一ヶ月間 私がいなくても平気なんですね……
    必要にされようと、一生懸命がんばってきたのに、全部ひとりずもうだったんですね。
    あは、は……おすもうなら最初から負けちゃってますね…………)
 感情が抑えきれず、涙が溢れそうになって、あわてて頭から布団に埋まる雪歩。敷き布団よりも下に。

P「(また埋まった……)すまない雪歩。だが、雪歩もアイドルだったんだ、分かってくれるよな。寂しくなったらいつでも電話してくれ」
 今の携帯電話は、口にくわえたタッチペンでつつけば雪ダルマでも使える。
雪歩「はい……」
 アメリカについて行きたかったが、言い出せなかった。『プロデューサーの負担になること』は、雪歩が最も恐怖していることだったから。
だが、その恐怖が、繰り返された美希による脅しまがいの話によって、意図的に高められていたものだと、雪歩は気づかなかった。
 

 そして出張一日目から毎日。ほんとうに毎日、雪歩は、アメリカから電話をもらった。
…美希からの電話を。

美希『いまオフで、ナイアガラの滝にいるのー! ハニーとふたりっきりの思い出いっぱいつくって帰るのー!』
美希『ハニーと一緒に高級ホテルに泊まってるの。今夜が待ち遠しいのーっ!』
美希『ねぇねぇ雪歩! ハニー忙しくて、雪歩とは“新婚旅行”いけなかったんだよね? ミキたちのお仕事がいっぱい
    いっぱい入ってたから。でも安心してほしいの、ミキが新婚旅行代行サービスしちゃうの! ハニー大満足なんだから』

美希『ミキ英語うまくなったってまたハニーが褒めてくれたの! 行きの飛行機の中で高校英語マスターしちゃうなんてって!
    この数日はミキがハニーに教えちゃうこともあるんだよ! もちろん、個人レッスンなの』
美希『ねぇねぇ聞いて聞いて雪歩っ、ハニーったら、ことあるごとに、ミキのおっぱいに肘を押し付けてきて困っちゃうの。
    きっと雪歩のおっぱいじゃ全然満足できなかったの。あふぅ。でもハニー激しくて、ミキもちょっと、感じちゃうかも…』

美希『……雪歩。ハニーに変なこと言ったでしょ。どういうつもりなの?
   ミキみたいな大物アイドルが、怒って移籍なんてしたら、社長に怒られて、立場がなくなっちゃうのはハニーなんだよ。
   雪歩はハニーのお仕事の邪魔したいの? もう業界人じゃないひとが口を出してミキ“たち”に迷惑かけないでほしいの!』

 時差で暗い部屋の中、うつろな瞳で携帯電話を見つめる雪歩。涙で携帯が壊れてしまえばいいと思う雪歩。(でも防水)
気をまぎらわせようにも、手も足もでない雪歩には、聞きつづける他、できることはなかった。



  • 最終更新:2011-12-31 18:51:44

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