ダルマ雪歩の結婚生活:精神圧迫編


 この淫行が知れ渡れば、職場からも、厳格な萩原家からも恐らくきっと追放される。警察に突き出されるかもしれない。
“アイドルに手を出してクビになったプロデューサー”で、前科者ともなれば、Pとしての再就職も険しいものとなり、
良くて専業主夫として美希に飼われる結末。ならば美希の言うままになっても同じ、というわけだ。
 殴ってでも、どこかにあるかも分からぬビデオカメラや携帯電話を取り上げる乱暴さなど、Pは持ち合わせていなかった。

 中学生と大人。アイドルとそのP。結婚できない年齢ともう結婚してしまった立場。いくつもの壁がある、背徳的な逢瀬。
美希(ハニー……もうすぐ、もうすぐ助けてあげるね、雪歩……あの一度は死んじゃったはずのオバケちゃんから、あの子の呪いから)
 だが、許されない恋だからこそ、燃え上がるのだ。
 互いを何度も何度も果てさせ、心地よい愛と希望と達成感にひたりながら、美希はいとしいハニーに寄りかかる。
美希「じゃあ、録音するね、ミキが小声で言う通りに、大声で繰り返してほしいの」 ポチッ
P 「あ、あぁ」
美希「(ささやき声で) ハニーは、ミキを愛しています」
P 「“ハニー…は……美希を愛しています”……」
美希「雪歩なんかよりー、ずーーーっと好きです」
P 「“雪歩なんかより、ずうっと好きです”」
美希「ミキ、結婚してくれっ、なの!」
P 「“美希、結婚してくれ………なの”」

P 「こんなの録音してどうするんだい」
美希「目覚ましに設定するのっ! 起きるのが楽しみで、ぐっすり眠れるから」
P 「……じゃぁ、そろそろ俺、帰らなくちゃ。おみやげ買ったりとかもしなきゃいけないしな」
美希「いってらっしゃいなの、うぅ……ハニーが出かけちゃうのは悲しいけど、でも、恋の炎は邪魔が入るほど燃えるよね」

P (雪歩……すまない、俺は、最低だ…)
P (でも、気持ちよかった)
   
美希(ハニーが、勇気をくれたから……おばけ退治、がんばるよ! つらいけど、大好きなハニーのためなら、ミキ、いくらでも
   汚れ役を買う。ハニーを助けてあげたいから。ミキの演技力なら、あんなぬいぐるみ脅かすくらいカンタンなの!)
美希「さーて、雪歩に電話するの」 ポチポチ
 PLLLLL……PLLLL……
雪歩『はい……』
美希「もしもし? 雪歩って、いつかけても繋がるからミキ嬉しいよ。“ニート”さん療養中でうらやましいの」
雪歩『……あぅ……今度は何ですかぁ…』
美希「(敬語、雪歩ってば、わるい子のくせに年下のミキにおびえて敬語使ってるの。笑っちゃうの!) 雪歩、この前送った動画みてくれた? 」
雪歩『……この前の…』
美希「ハニーが、思いあまってミキに襲いかかっちゃう動画ー」
雪歩『……あんなの、あんなの……うそです……きっと、違う人ですぅ…』
美希「なにとんちんかんなこといってるの? 雪歩は、自分の結婚した相手の顔も体の特徴も分からないんだ?」
雪歩『……。プロデューサー、きっと、酔っぱらっちゃってたとかで……』

 雪歩は、五体のうち最後に残った頭すら、にぶらせて、現実を現実として受け入れないことで、なんとか美希の精神攻撃を凌いでいたのだ。
雪歩「お酒のこと、分からないですけど、そういうので、きっと本心じゃ……」
美希『雪歩。現実を見なきゃだめなの。“妊娠して、雪歩のおなかがちょっと大きくなったから、ハニーは雪歩を抱けない、だから間違ってああなった”って思ってるの?』
雪歩「そうですよぅ……あの人は、プロデューサーは、私をいたわって……(だから、お口では…)」
美希『キモチ悪いから抱きたくないだけだよ』

雪歩「……」
美希『あの動画の意味は、「むらむらしても、おばけだるま雪歩とエッチするくらいならレイプ魔になったほうがましー」
   「レイプするならやっぱり美希だよね」、っていうハニーの貴音なの。じゃない本音なの』
雪歩「そんな……(ちがいますぅ……!)」
美希『それにしても、手足もないのに、これ以上 おなかがぽこっーとしたら、雪歩、本格的にだるまさんだよね。おぉこわいのー、みにくいの、おばけみたいなの、モンスターなの!』
雪歩(あぅ…ほんとうにその通りですぅ…)(うそ……私、おばけなんかじゃないですぅ、おばけなんかじゃ……
   あの人は言ってくれました、雪歩はきれいだよって、雪歩といっしょに寝ると心が安らぐって……)
美希『ハニーかわいそう! 毎日モンスターの檻に帰って、添い寝しなきゃいけないなんて、拷問なの』
雪歩(ごめんなさいプロデューサー……きもちわるいですよね)(…ちがう、愛してくれました。勇気を出して、フェラチオをしたときも、最初は驚いたけど、喜んでくれて……)
美希『夜な夜なちんぽにしゃぶりついてくる、妖怪ちんちくりんだるま、……完全にホラー映画なの!』
雪歩「ううぅっ……っ…!!」
美希『(もっと苦しめなの! 雪だるま悪魔、魔女雪歩、ミキからハニーを奪い取った悪女!) 雪歩は、こころとおんなじで見た目もみにくいの!』
 ブツ切り。
 通話終了をタップし、雪歩は、生まれて初めて電話をブツ切りをした。タッチペンを咥えた歯が、カタカタと震える。
動揺は止まらない。精神的ショックから、体がかゆくなって、頭が白くなって、嘔吐感もこみ上げてきて。ほんの少しだが、胃液を体外に吐き出してしまう。
 
雪歩「はぁっ、ふぅっ、電話、電話を…」 寒気に震えながら、強酸性の体液に濡れたタッチペンを再び咥える。喉から舌までが痺れる。
 誰かに、一刻も早く、公正な第三者の誰かに、美希のあの意見を否定してもらわなければ、心が壊れてしまうから。携帯電話を操作する。
美希への憎しみはない。この際気にしない。気にできない。萩原雪歩にとって、重要なのは良くも悪くも、自分と現実。
イジめてくる美希も、無神経な言葉を口走った亜美真美や響や伊織も、首以外全て切られた自分の首を切った社長も、961すらも、
浮気したPだって、雪歩に恨まない。恨む余裕がないのだ。大事なのは、美希の言葉が、「醜い雪歩はPに愛されていない」というのが、
事実なのか、真実を言い当てているかどうか。だるまになった自分・萩原雪歩の存在が、今の雪歩にとっての全て・Pに、“正”なのか“負”なのかだ。

 真には電話できない。真の声で、つらい言葉を聞ことになるかもしれないのは、怖いから。それに、同性の感覚で
の意見が聞きたい。小鳥やあずさにかけても、無難な慰めしか来ないだろう。プロデューサーや雪歩を気づかっての
嘘で、言葉を塗り固めるようなことがないような人。それでいて客観的に、Pの普段の様子を把握できていそうな人。
伊織『もしもし?』
雪歩「伊織ちゃん、こんな夜中にごめんね?」
伊織『……。そういえばあんた電話かけられるんだったわね。すっかり忘れてたわ』
雪歩(伊織ちゃん、とげとげしい…。しばらく話してないから『さん』付けしなきゃ失礼だったのかな…、
   売れっ子アイドルで、私みたいな暇人さんじゃないから、夜中に電話かけるのってすごく悪いことだたったかな……
   ……分からない、プロデューサー、私、ずっと部屋に篭もって、常識が分からなくなってますぅ…)
伊織『新聞読んだの? アイツから聞いた? 礼なんていらないから』
雪歩「え? なんの話?」
伊織『あぁそう……(こっちはアンタのために961をやったって。それだけよ)』

雪歩「ねぇ、伊織“さん”……どうしても聞きたいことがあって電話しました。私、きもちわるいかな…? お仕事のとき、プロデューサーは、どうかな? 私のこと」
伊織『(なにその半端な敬語。アイツの気も 私の気も知らないで相変わらずうじうじして、気持ち悪いのはそこ)別に。……“どうかな”って?』
雪歩「あうう、プロデューサー、私のこと何か言ってますか? ごめんなさいこんな遅くに…」
伊織『はぁ。何言ってるの。聞いてるんだからね。アンタがどれだけアイツを苦しめてるか……』
雪歩(え? 聞いてる……まさか、美希ちゃんが、事務所で私の悪口を言いふらして……それで私、伊織ちゃんに嫌われて……きっとみんなにも嫌われて)
伊織『私に何か言ってほしいわけ? そうやって泣きそうな声を出して甘えれば、誰かが慰めてくれると思ってるの?
   どうせアイツにも、そういう声で泣きついたんでしょ。泣き落としで結婚したんでしょ!(私が一番なりたくないタイプの、弱いお嬢様)』
雪歩「ねぇ、伊織ちゃん…? ううん、でも、いいの、今聞きたいのは、職場の伊織ちゃんにはどう見えるかなって、私、愛されてないのかな……って」
伊織『だから、なにバカなこと言ってんのよ』
雪歩「…?」
伊織『そんなの当然でしょ』


  ~  ~  ~

雪歩「あのぅ…」
美希『あふぅ。自分で切ったくせにまたかけてくるなんて』
雪歩「もしも、私が、死んじゃうことが、あったら、あの人を……プロデューサーのこと、幸せにしてくれますか…?」
美希『むにゃむにゃ。はいはい。(またいつもの“しぬしぬサギ”なの? いま一時的に死にたくなっても 雪歩どうせすぐ復活するもん。
    まだだめ、もっと追いつめなきゃ…) ハニーのこと不幸にしてる犯人の、雪歩がいうのはおかしいの…』
雪歩「ぅ、そうですよね……あは……(プロデューサーに見放されて、事務所でも嫌われちゃって……私がいなくなれば……それで、みんなが幸せで…)」
美希『離婚か死んじゃう決意ができないの? なにも心配することないよ、そうそう、おなかの子も、ハニーの子なら、ミキが育ててあげるの』
美希『ハニーの子にとって、どっちが幸せかな? 抱きしめてもくれないおばけママと、その名もとどろくトップスターのママと。
   ミキ、その子のためなら、お仕事を休んで毎日おにぎり握ってあげるの……。うん、考えたら楽しみになってきたかも』
美希『ねぇねぇ雪歩、名前ね、ハニーとミキの子供っぽくしといてなのっ。女の子ならミキの“美”、男の子ならミキの“希”の字を入れて……』


雪歩「はぁっ……はぁっ……」
 電話を切った途端、撮れたてほやほやの動画ファイルが、音声ファイルが、美希から波状攻撃で送られてくる。

  P 『おほぅ…………イグ……美希のおっぱいに包まれて……パイズリでイク……』
  美希『うりうりっ、ハニーおっぱいに弱すぎるの!』 どぴゅっ びゅびゅ!

  P 『気持ちいい! 手こき、ひもぎいいよ、美希゙のデゴギ、あへぇ』
  美希『れろれろ。ハニー、逃げちゃだめだよ。これハニーがミキに教えたんだから……そのままイッてほしいの』 シュシュシュシュ…

  P『美希を愛しています…………雪歩なんかより、ずぅっと好きです…………美希、結婚してくれ………なの』
雪歩「いやぁああぁあっ」 ぶるぶる

 死の淵(自殺の淵)まで追いつめられた心で、裏切りの現実を見せつけられ、完璧な錯乱状態に陥って。
文字通り、命乞いの形相で「やめて」と泣き続ける雪歩……を無視し、携帯電話のディスプレイの中、Pと美希は、互いを激しくむさぼり合うのであった。

  • 最終更新:2012-02-17 12:49:56

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