ハルカモドキ・ロワイヤル

521 :ハルカモドキ・ロワイヤル:2011/01/17(月) 18:59:02 0
学者のセンセイが言うことには、始まりはほんの数匹、いや、事によってはたった一匹の個体だったらしい。この珍妙なバケモノは。
それが何かのきっかけで野生化するや否や、水に触れると増殖するというダーウィンやアインシュタインを屁とも思わない出鱈目な生態によって、爆発的にその数を増やしたのだという。
だが、一般にハルカモドキと呼ばれているこのバケモノが、SFのように地球を支配することはなかった。あまりにも急激に増殖したハルカモドキはたちまちのうちに超過密となり、今度は大量死をはじめたのである。
山のように積み上がった同族に押しつぶされて圧死するもの、窒息死するもの、あたりの生きとし生けるものを食い尽くしてついに共食いを始めるもの。ホラー映画でもこれほどの狂気を描いたものはないだろう。
それでも、この大量死で根絶やしになってくれればまだ良かった。現実とは残酷なもので、そうはならなかった。比較的気性の大人しい個体が生存競争に敗れて死滅していく中、とびきり奸邪で獰悪なハルカモドキだけが生き残り、
自滅しない程度の繁殖能力を身につけて再び数を増やしはじめたのだ。
さらに悪いことには、ハルカモドキは人間の生活に寄生することを会得しはじめた。かくして人類は、害虫との果て無い戦いに、また新たな敵を迎えざるを得なくなった。


ある晴れた日曜の朝、俺は箱に閉じ込めたハルカモドキどもを車に載せ、山道をドライブしていた。 目的地は山の中腹にある、最近廃校した小学校。
着いてみると、校門は開け放ったまま。校庭の土はもともと養分が少なく、また廃校してからそれ程間が経っていないために、全体的に草がちょろちょろと生えているが荒れ野のようにはなっていない。
端の方は少々生い茂っているが、この程度なら問題にはならなそうだ。
さらに4面をフェンスで囲まれ、校舎側の一部と校門だけがぽっかりと口を開けている。つまり、校門を閉めて校舎側に俺が張れば、この校庭は完全に囲まれる、というわけだ。

俺は箱を車から乱暴に地面に投げ落とすと、ロープを引いて中からハルカモドキどもを引きずり出した。
モドキどもは両手首をぴったりと固定され、腕と体とが作る三角形の中にロープを通されているので、 捕縄に縛められた凶悪犯よろしく俺の引くようにしか歩くことを許されない。
最初はこうまでしても喚き散らして暴れ回っていたのだが、どいつか一匹が俺に飛びかかろうとすると他のモドキどもと歩調が合わず、みんなまとめてずっこけ、
怒った別の一匹が立ち上がろうとしては綱に引かれてまた転び・・・と馬鹿なことばかりして、そのうちに今のように大人しくなった。実に協調性の無い奴らだ。
が、口だけは達者なままなので
「ヴァーイ!」「カッカー!」「ハルカッカー!」と口々に喚き立て、喧しいことこの上ない。
そもそもどうしてこんな有様になったのか覚えていないのだろうか。


522 :ハルカモドキ・ロワイヤル:2011/01/17(月) 18:59:50 0
俺の家に、複数のハルカモドキが棲み付いているのに気づいたのは1週間前のこと。
買い置きの菓子から冷蔵庫の中身まで、凡そ食べられるものは食害に遭う。このままにしてはおけないと、さっそく捕まえることにした。
ハルカモドキをおびき出すには食い物に限る。キッチンの真ん中に高めのチーズケーキを置いておくと、まず1匹のモドキがノコノコと現れた。
そこをすかさず、後ろ手に「道具」を隠し持ち、思わせぶりな顔で手招きをする。
浅ましいモドキは、てっきり俺が隠している「それ」を自分だけにくれるものかと、「アハハハハ・・・」と薄気味悪い笑いと共に突進してくる。
その喉元をつま先で蹴り上げてやると「ウペッ!」と情けない声を上げて仰向けに転がった。
「欲しいなら欲しいなりの作法を見せろ、欲の塊め。こいつが欲しけりゃ、両手を合わせて『ちょうだい』をしてみせろよ。」
「カッ、カ!カッ、カ!ヴァーイ!」
合わせた腕をブンブン振り、洗面器でも飲み込めそうなほどのデカ口でニタニタと笑う。
やれやれ、どこまで意地汚いんだろう。そんなに欲しけりゃくれてやろう。
あらかじめ輪にしておいたプラスチック製の結束バンドにモドキの腕を素早く通し、端っこを引っ張って締め上げる。

「『ちょうだい』じゃなくて、手を合わせて『ごめんなさい』するなら切ってやってもいいぞ?
手首がぴったり合ってるから馬鹿なお前にもやりやすいだろう。」
これにはハルカモドキ大激怒。俺の足に噛み付こうとするので、また蹴り上げて転がしてやると、
ニタニタ笑いの顔のまま気のふれたオウムのように「ヴァーイ」を連呼する。
本当にあきれた奴だ。じゃあずっとそうやってろ。
捕まえたモドキの口にタオルを押し込み、箱に放り込むと次の捕獲にかかる。結局、まったく同じ手口であと4匹のハルカモドキが捕まった。
なんだか頭の悪さに同情を禁じえない。

そして今、俺の目の前には「凶悪犯」5人、
もとい5匹がフェンスの支柱からロープで数珠繋ぎになっている。
俺は車から別の「道具」を幾つか取り出した。そのうちには特売の大福餅がある。
「見ろ、美味そうな大福だろう?2つだけある。もっとも一つは、俺が今食べるがな。」
そう言いつつ、大福にかぶりつく。うん、けっこう美味い。
この光景は数日前から飯抜きで飢えているモドキどもには、相当妬ましく見えているようで
「ヴァーイ!ヴァーイ!」「カッカッカー!」の大合唱が起こる。

「じゃあ、5等分して食うか?」
異口同音に独り占めを主張する。まあそう言うと思ったよ。
「そうか。でも一匹で1個食べられる、いい方法があるぞ?他の4匹が『居なくなっちゃえば』いいんだ、そうじゃないか?」
ハルカモドキどもは何かはっと気付いたような顔つきをして、互いに顔を見合わせている。
僅かに間をおいて、その口元がにやりと歪み、目が不気味な輝きを帯びてきた。

こいつら、本当にやる気だ。あまりに浅ましい根性に、我ながらぞっとする。だが、そうでなくては困る。
「それじゃあゲームの始まりだ。お前らにこれをやる。」
ハルカモドキの襟首を掴んで引っ張り、首もとに松明を差し込む。松明といっても、角材にタオルを捲きつけて針金で止めただけの品だが。
ちなみにこのタオルはモドキを黙らせる時に使ったものだ。わざわざ新しいのを買うなんて勿体無い。
つづいて、松明の角材を濡らさないように気をつけつつ、モドキに灯油をぶっかける。

最後の仕上げは、キャンプの時などに使う、ゲル状の着火剤だ。
マヨネーズのようなボトルの先端を、ボサボサと不潔に跳ねた茶髪に突っ込んで適量を搾り出すと、ゲルは髪に絡んでまったく落ちてこない。
灯油まみれのドレスにも多少塗りつけて準備は全て完了だ。
「いいか、お前らの松明にも同じゲルが塗りこんである。そいつを使って邪魔者に火をつけろ。邪魔者が減れば減るほど、お前の取り分が増えるんだからな。
ただし気をつけて扱わないと、とんでもないことになるぞ。お前らは今、すごく燃えやすいってことを忘れるな。」
そう言いつつ、チャッカマンを取り出し、松明に火をつける。

「特に、こんなに固まっていたらみんなまとめて燃えちゃうぞ。」
その言葉にハルカモドキどもがビクッと縮み上がったところでロープを切ると、蜘蛛の子を散らすようにめいめい勝手な方向に逃げて行った。
だが、頭の上で松明が燃え、熱くて仕方ない上に、いつ自分の頭に火が燃え移らないとも限らない。
まあ、そう簡単に燃え移られては困るので垂れやすい灯油ではなくゲルを使ったのだが、モドキどももこれは短期決戦に限ると気付いたものと見えて、命がけの鬼ごっこを始めた。


523 :ハルカモドキ・ロワイヤル:2011/01/17(月) 19:00:42 0
このショーは傍目に見る分には実に面白い。
もともと短足で頭が異様に大きいハルカモドキ。さらに松明がつき、いつも以上に不安定になっている上に腕が自由に動かせないのでバランスが取れない。
そんな状態で、ただでさえ不気味な顔を醜く歪め、必死になってフラフラ走る。
追うハルカモドキがへっほへっほ、へっほへっほと気持ち悪い声を上げて、壊れたメトロノームのように松明を振りながら走る。
追われるハルカモドキが「ヴマーーー!」と狂ったような声を上げて逃げ惑い、走る。
実に下劣、実に悪趣味なショーである。だが、見ている俺は馬鹿笑いが止まらない。
そのうち、ひそかに期待していた出来事が起こった。あまりのバランスの悪さと、草が生えて走りにくい地面のため、一匹のモドキが校庭の真ん中辺りでずっこけたのである。
拍子に松明の炎が揺らめき、頭のゲルに着火。

「ゥヴァーーィ!ゥ゙ァッ、ヴァッ!!ビャーーーー!」

マッチ棒のような茶髪が火を噴き、モドキが目を普段の倍くらいに見開いて泣き喚く。
残りのモドキどももこの惨状に驚いて、足を止めて事の成り行きを見守っている。
燃えているモドキは何とか起き上がろうとするが、パニックを起こしている上に腕の自由が利かないので上手く立てず七転八倒。
そのたびに風にあおられて火勢は強まり、ついに服にも火が移った。

「ピャアア!ピャアアアアアア!!」

火達磨になったハルカモドキが蠢き、悶えている。
その顔は土と煤とヨダレと鼻水と涙と体液でべとべとに汚れ、言葉で言い尽くせない凄惨さだ。
他のモドキどもも、自分たちがいかに危険なゲームをしているかにやっとのことで気付き、完全に戦意喪失したようだ。
だが、4匹が足を止めていられたのも僅かな時間のことだった。火達磨の結束バンドが、熱で溶け、切れたのである。
火達磨はバネで弾かれたように起き上がると、何を考えたのか一番近くに居た別のモドキに向かって走り出した。

「ピキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

それは既に言葉ではなかったし、叫びともいえなかった。
意識とは無関係に喉の奥から絞りだれる「音」としか言いようがなかった。
あえて意味を推察するなら「助けて!」だったのか「死なば諸共!」だったのか、たぶんその辺だろう。
もっと転げまわっていれば、あるいは火も消えたかもしれないが、むやみに走るから風が当たってぼうぼうと燃える。
燃えるから熱い。熱いから調速器が壊れたゼンマイ人形のごとく腕を振り回し、一層スピードを上げて突っ走る。

追われる方も必死に逃げる。しかも愚かにも、さらに別のモドキに向かって逃げるのである。
そのモドキはまた別の・・・お前ら、道化の才能があるようだな。

運よくこの馬鹿げた連鎖反応に巻き込まれなかったモドキが一匹いた。
顔面蒼白でこちらに走ってくる。

「何をやってる?他の奴をみんな焼き殺さないと、ゲームは終わらないぞ。こっちに来たら突き倒してあいつみたいに火達磨にしてやる。」

と竹ざおを持ち出して突く真似をすると「ヴァアイ、ヴァアイ!」と逃げていったが、
やはりもう戦う気はなくなったようで、フェンスによじ登って逃げようとする。しかし手首が重なったままでは、どうにも登りようがない。
それではせめて、と松明を外そうとするが、結束バンドがある限りあと一歩のところで外れない。
ついには、松明の炎が服の袖に引火した。

「ビャアアアアア!アヴァイ!イヴァイ!アヴァイ!アヴァイ!ウンヴァーーーーッ!!」

馬鹿な奴だ。だが、怪我の功名というか天佑というか、袖から焼けたおかげで一番少ない被害で結束バンドを焼き切ることに成功した。
痛む腕で松明を引き抜いて捨て、袖の火を叩いて消し、フェンスをよじ登る。
ここまで行くとは想定の範囲外だった。
だが、運命というのはそうそう甘いものではないらしい。


524 :ハルカモドキ・ロワイヤル:2011/01/17(月) 19:04:27 0
「カッカー!カッカッカー!!」

一人だけ逃げようだなんてズルい、自分も逃げる、とでも言いたいのだろう。別のモドキが、同じ位置からフェンスを登ろうと走ってきたのである。松明をつけたままで。
当然先にフェンスを登っていた方は尻を炙られ、ドレスの裾と尻から出火。

「チャアアァァァッ!」

たまらずフェンスから転げ落ちて火達磨2号に成り果てる。
見れば火達磨1号はすでに力尽きて、イモムシかミミズのようにのたくっている。

それでもあの耳障りなカッカ、ヴァーイをやめない1号の腹を蹴り上げてやりたくもなるが、ここを離れた隙に別のモドキが校舎に逃げ込めば、火事になりかねない。
じっと我慢して火達磨2号と別の3匹の様子を見守る。
2号は下のほうから火がついた分、全身が一気に火に包まれて威勢よく走り回っている。
残り3匹は恐怖心からか、小便を漏らし、下痢便を漏らし、びいびい泣いて鼻水を垂らしながら、2号に狙われないように、きれいに3方に分かれて走って逃げる。
チームワーク、というよりは呉越同舟という奴か。
しかし同属を哀れむ気持ちなどは皆無のようで、重なった手首を2号に向けて「しっしっ」と振っては、思いつく限りの罵声とおぼしき鳴き声を浴びせつつ泣いている。

しばらくの間この均衡は保たれ、このまま2号が力尽きて仕切りなおしか・・・と思われたとき、ちょっとしたハプニングが起こった。
3匹の中の1匹が、校庭の隅にあったジャングルジムの下を通り抜けようとして、横棒に松明を引っ掛けて仰向けにコケたのだ。
運よく松明の火は消えたものの、角材が邪魔になって起き上がれないようだ。
大声で別の2匹に助けを求める。俺を指さしては、助けてくれた見返りにあいつの大福を分けてやる、といったようなことを伝えているようだ。

しかし、もちろんハルカモドキが他人を助けるなどということをするはずはないし、いくら知能が低くとも持ってもいない大福に釣られるほどの馬鹿でもない。
それにしても大福を「やる」という、既に自分がそれを得るに決まっているかのような口ぶりがずうずうしい奴だ。
そもそも俺が俺の金で買ってきた大福だっていうのに。

ところが、この声を聞きつけたのが火達磨2号。
体中丸焼けで足腰は立たなくなり、髪は焼け落ち、目が片方つぶれたようだ。
しかし最後の執念を見せて、身をよじり、ひねり、くねらせてコケたモドキに向かっていく。

「カッカ?!ヴァーィ!!ヴァイ、ヴァヴァーィ!」

お前はこっちへ来るな、そこでおとなしく死ね、とコケたモドキが狂乱して叫ぶ。
静かに、しかし着実に迫ってくる2号に怯えて真っ青になり、四肢も千切れよと盛大に暴れるが、何の役にも立たない。

「う゛ー・・・う゛ー・・・・・・!!」

焼けて真っ赤に膨れた顔、その顔よりも赤く目を血走らせて、ついに2号はジャングルジムにたどり着くとハルカモドキの腿にしがみついて力尽きた。

組み付かれた方のモドキは最後まで「ビャー!ビャーーーー!」と喚いていたが、
火が燃え移るといよいよ訳の分からないことを叫びだし、そのうち気絶して丸焼けになって事切れた。
これでゲームは一対一の大詰めかと思いきや、一方のハルカモドキがぶんぶんと首を振ってなにやらもう一方を説得し始めた。どうも、ゲームを放棄し、大福を半分こして場を収めようということらしい。

既に3匹の同族がグロテスクに死ぬところを見ているハルカモドキである。自分が焦熱地獄で狂死するリスクと取り分半減のリスクとを天秤にかければ、さすがに後者を取って不思議はない。
提案を持ち掛けられた方も大人しくそれに従い、先に立ってこちらに歩いてきた。
が、そのとき。後ろに回ったモドキがそっとしゃがみ込み、落ちていた古釘を拾うと先を行く方を蹴り倒した。そして、太ももに釘を突き立てると松明を奪って投げつける。

謀られた方のモドキは、一気に燃え上がった。熱と痛みに一際大きな声で泣き喚く。

「ビャー!ビャアァァアァーー!ゥヴァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ーー!!」

一方謀った方は喜色満面、俺の元にやってきて、カッカ!カッカ!と優勝商品を要求する。


525 :ハルカモドキ・ロワイヤル:2011/01/17(月) 19:07:44 0
「流石だよ。ここまでお前が薄汚い下衆な根性を持っているとは、俺も思わなかった。」
「カッカ!カッカ!ヴァイ!」
「だが、頭の中身は、俺の方がちょっとばかり勝ってるようなんだな。」
「カッカ?ハル、カッカー!ヴァーーイ!」
「頭なんてどうでもいいから、早くよこせってか?まあ待てよ。お前の背中の松明、針金でタオルを押さえてあるんだが、タオルがだいぶ燃えてるだろ?
 すると針金が緩くなって・・・」
「カ?」

「襟に落ちてくる。」

その言葉と同時に、火のついたタオルはするりと角材を滑り落ち、ハルカモドキの背に入り込んだ。
「それ、お前も走り回って来い!」
「ギャアァァーーーーッ!!ヴァ、ア゙ァ、ウンヴァアアアアアアア!!」

ついに全てのモドキが炎に包まれた。
先ほど謀られた方は恨みに目を血走らせ、一息に釘を引き抜くと歯をがちがちと鳴らしつつ怨敵に向かって走ってきた。手には角材を携えて。
「優勝」の儚き夢に踊らされた方は必死で逃げる。
二つの火達磨があちらこちら走り回って、実に馬鹿らしい。

「ゥヴァアーー!ヴァイ!ヴァアアイ!」よったよった、へっほへっほ。
「ヴァ!ハル、カッカー!カッカーー!」よったよった、へっほへっほ。


526 :ハルカモドキ・ロワイヤル:2011/01/17(月) 19:08:32 0
おそらく心の汚い亡者たちが落ちる地獄というのは、こんな感じの不毛な争いが永久に続いている所なのだろう。
2匹のモドキはしばらく走り続けていたが、同時に崩れ落ちるように倒れ、腿に傷を受けた方はそのまま事切れた。
だが、最後まで残った方はまだしぶとくも生きている。
燃えた服や灯油、そして焼けた肉の匂いが混じったむせ返るような白煙を立ち上らせ、今にも呪いか祟りでも吹き出しそうな瞳でこちらを睨みつけている。
「やあ、おめでとう。お前の勝ちだ。
 だが、商品が必要かな?どうせもうすぐ死んじまうだろうに。」

ハルカモドキは恨みと怒りに狂った瞳をキッとこちらに向けたまま、呪詛の言葉をつぶやいている。本当に俺を呪い殺そうとしているのだろうか。
「面白いな。お前みたいなチビで無力な生き物に呪われたって痛くも痒くもない。
 もしお前が、本当に人を呪い殺すほどの力を持っているって言うなら、一つ試してみようか。」

そう言うと俺は竹ざおの先に糸で大福を吊るして持ってくる。
そして竹ざおを掲げ、モドキの真上、150cmくらいの位置に大福がぶら下がるようにした。

「どうだ、お前の力を見せてみろ。この大福に食らいつけるか?
そんな焼け焦げて肉だか炭だか分からなくなった手足でさ。」

「ヴウ・・・ヴウウ・・・・・・・・・!!」

ハルカモドキはしばらく燃えるような瞳でこちらを睨み付け、
次いで真上にぶら下がる大福に視線を合わせて全身をふるふると震わせた。
そして目をかっと見開くと


「う゛ぁああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」


馬がいなないたかと思うような野太い声を上げて、手足を突っ張り大きく飛び上がると、竹ざおごと大福に食いつき、
さおの先端を食いちぎって頭から地面に落ちた。その瞳にもはや生気はなく、手袋越しに触れると、脈もなくなっていた。

俺はハルカモドキどもの死体を穴に埋め、片づけをして山を下りた。
あれ以来俺の家にハルカモドキが出ることはなくなった。
ちなみにその呪いは今のところない。
奴が死の瞬間考えていたのは「俺を呪い殺すこと」ではなく「大福に食いつくこと」だった。そして、そのために全身全霊の力を使い切ってしまった。
おかげで「大福に食いつくこと」は達成され、奴はそのまま成仏したのだろう。

・・・いや、奴が「仏に成る」ことができるかは微妙だし、正直なところ成って欲しくないが。

あの学校は近く取り壊され、産廃置き場になるという。
存在自体が産廃のハルカモドキどもにとっては、お似合いの墓標になるだろう。

  • 最終更新:2011-03-14 11:15:49

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード